NPOメディカルヘルスケア療法協会

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漢方医学の未来

近年大学などでもふえはじめているのが伝統的な漢方医学です。その中で経穴(ツボ)を利用した無痛整復法(痛みを与えない骨折の治療)を科学的に数値化する為に数回今月もつくば学園都市に私自身行き筋電図を被験者に付け行ってきました。その手法の元にはやはり漢方医学があります。脈と舌と腹を見て患者さんの状態を判断しながら行いますが日本ではこれが明治時代の初期までは普通の医療でした。軍隊医学に不向きなどの理由により日清戦争後、漢方は国の医学として認められなくなりました。現在病院などでも漢方薬が使われるようになり昨今では医師がその診察法について学ぶ機会も長い間なくなっておりました。
今回はいままで漢方医学を何回かに載せたまとめとして漢方医学の診察の仕方をまとめます。


2)腹診
 漢方の診察法は一見すると西洋医学と同じように見えます。症状を詳しく聞いて、脈と舌を診て、そして腹を診ます。でもよ~く見ていると西洋医学となんとなく違うことがわかるかと思います。
 例えば「腹診」です。患者さんがお腹の病気をしているのであれば、腹を診察するのは当然ですね。
 ところが、日本の漢方医は、頭の病気でも、肩の病気でもお腹を診るのです。
 「この医者、どこか頭がおかしいのではないか?」
 「ひょっとしてセクハラ医者じゃないか?」
 そう思われても不思議ではないかもしれません。ですから、よく説明してから腹診をすることにしています。
 西洋医学の腹診では肝臓、腎臓、脾臓が腫れていないか、腸音はどうか、腫れ物(腫瘍)はないかを探ります。近年は、画像診断が進歩したおかげでお腹を診なくても、レントゲン写真、CT、MRI などで病気がわかるようになりました。
 現代医学の進歩によって腹を触る必要性が減ってきました。現在では、消化器内科専門の医師でもお腹を触ることのない日があっても不思議ではないほどです。
 一方、漢方の腹診は、漢方薬の適応条件を探す作業です。「体質」を診ると言ってもよいでしょう。いくつかのポイントがありますが、今回は2つだけ紹介しましょう。


3)腹力
 漢方の腹診は背臥位(普通に寝た姿勢)で膝を伸ばした状態で行います。まずここから違っています。西洋医学では臓器を診ますので、膝は曲げて腹筋を緩めます。漢方では膝を伸ばしても本当に健康であればリラックスできるはずだという前提があります。膝を伸ばした状態で腹筋の緊張を緩めることができなければ、そこに内臓かどこかに筋緊張をきたす原因があると解釈します。
 腹力は5 段階で、昔の通信簿のように弱い順から1・2・3・4・5 で評価しました。すなわち腹力1 は最も弱く無力体質を、腹力5 は最も強い腹力で身体ががっちりしていることをそれぞれ示します。
 腹力を診ることは副作用の予防につながります。
 「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」という薬があります。これは食欲を低下させ、減量を助ける薬なのですが、構成生薬には大黄などの下剤を含んでいまして、ときに胃部不快感、腹痛、下痢をきたします。漢方医学では腹力4 以上が適応とされています。
減量を希望する様な方にこの薬を用いての研究では6 カ月以上服薬できた33 例と、副作用で中断した9 例の腹力を比較してみました。
 副作用のなかった33 例では腹力4 が19 例とがっちりタイプがその多くを占めていたのに対して、副作用のみられた9 例では腹力3 が7 例と中等度タイプが大半でした。両群の間では統計学的検討により明らかな差のあることが認められました。腹力4 以上であれば副作用はほとんどありませんでした。漢方医学では薬を用いる前に副作用を予測できていたことになります。素晴らしい医学だと思いませんか?


4)胸脇苦満(きょうきょうくまん)
 「小柴胡湯(しょうさいことう)」という漢方薬があります。こじれた風邪、慢性肝炎、喘息、胃炎、胃潰瘍、肩こりと実にさまざまな病気に用いることができます。西洋医学の病名だけではこの薬を使いこなすことはできません。その適応を示す重要な症候は「胸脇苦満」です。
 元々は胸脇部の圧迫感のことでした。ところが、江戸時代の先達がこの薬が効く患者さんでは、この自覚症状がなくても、肋骨弓の下を押してみて抵抗あるいは圧痛のあることに気がつきました。
 腹診の発明でした。中国、韓国にはない、日本独自の工夫です。彼らは脈と舌はよく診ますが、腹は診ません。もし診ている漢方医がいたら、その人は日本漢方に学んで診ている可能性が高いと思ってください。
 胸脇苦満がありますと「小柴胡湯」だけでなくその仲間の漢方薬である「柴胡剤」のすべてを使うことができます。逆に言いますと、この所見がないと「柴胡剤」を使うべきではありません。「柴胡剤」は慢性疾患の治療には欠くべからざる薬です。大正・昭和の名漢方医の処方の8 割は「柴胡剤」でした。


5)中国、韓国では腹診をしない?
 そんな日本の腹診に対してはこんな批判もあります。中国の患者さんは医師に腹を見せるような破廉恥なことはしなかったというのです。いかにも日本人のモラルが低いように聞こえる失礼な話です。昔の中国で(いつかは存じませんが)、身分の高い人が腹をみせるということはありえなかったそうです。診察のときには、漢方医からみてすだれの向こう側に「高貴な」患者さんが位置していて、漢方医が症状を尋ねた後に「では脈を拝見します」と言うと、患者さんはすだれの隙間から腕をぬっと差し出して、漢方医はその脈だけを診察したというのです。
 そのようなケースは実際にあったかもしれません。しかし、2000 年前の古典を読んでおりますと、腹を診ていないと書けない記述が多数あります。漢方医学創始者は間違いなく腹を診ていたはずです。中国は国が変わるたびに度量衡まで変えてきた歴史を持っています。どこかで腹を見る技術を失ったのだと推測しています。日本の優秀な先達がそれを復活させたのだと思います。


6)医師は漢方の腹診を知らない
 日本では西洋医学を学んだ者だけが医師になれます。中国、韓国では東洋医学だけの学校、国家試験もあって、西洋医学と二種類の医学が並立した状態にありますが、日本では一本化されています。西洋医学を学んだ者だけが漢方薬を処方できる体制なのです。ひとつの基準で医療が行われているわけですから、患者にしてみればどちらを受診してよいか迷わなくてすみますので、本来はより優れたシステムと言うことができます。
 ところが日本の医師の大部分は漢方薬は処方できても、胸脇苦満の診察法を知りません。実は日本の医学教育に漢方が正式に導入されたのはつい最近のことなのです。医師国家試験に漢方が出題されるのは早くてその6 年後と言われています。現在では全国の医学部で6 年間に最低5 コマ以上の講義がなされています。
 ですから、現役の医師の大部分はまだ習っていないわけです。
 「ええっ、そんな状況なの?」と驚かれるかもしれません。この伝統技術の一部を多少ですがわかりやすく実演しに私も各地に行きます。最近では勉強会も熱心に行われています。漢方医学を勉強する機会は格段に増えています。医師から「漢方薬を処方したいのでお腹を拝見させてください」と言われることが普通になる日は近いと思います。